- 三沢市出身36歳。K-1ファイターであり格闘家。
小比類巻道場を主宰し後進への指導やK-1復活に向けて尽力している。 - 小比類巻 貴之
初出版を記念して凱旋トークショー
山車を見ながら格闘技談義
「ただいま。」
会場からの“お帰りなさい”コールに、照れながらも嬉しそうな表情で応えた小比類巻さん。
自身初となる著書『あきらめない、迷わない、逃げない。』の発売を記念して、8月24日アメリカ広場のステージでトークショーを行いました。
17歳で東京に進出して以来、久しぶりに目にするという三沢まつり。
「小学生の頃は山車を引っ張っていた。お囃子の音を聞くと血が騒ぎ、三沢に帰って来たことを実感する。」と、幼少期を振り返りながら、熱い格闘技話が繰り広げられました。
強くなりたい
その方法を教えてくれたのは三沢の海
「テレビで観てかっこいいと思った。」
中学生の時に格闘技に目覚めた小比類巻さんは、「自分もこんな風に強くなりたい」と、地元の空手教室に通いはじめます。稽古に励みながら自主練でさらに実力をつけ、県大会・東北大会と立て続けに優勝。最年少となる17歳で全国入賞を果たしました。
「今の自分なら、できる」
自身に対する強い自信を胸に東京へ進出。
しかし、ここからの道のりは決して平たんではありませんでした。
初めて受けたプロテストで、顔面がゆがむほどボコボコにされ、まさかの惨敗。
口惜しさのあまり、リングの上で大泣きしてしまった小比類巻さんは、大きな屈辱とともに人生初の挫折を味わいました。
ふと我に返ると三沢の海に。
「ずっと水平線を眺めていたら、自分は空手の距離で戦っていた、ということに気付いたんです。だからパンチをくらったんだって。」
すぐさま実家に帰り、ボクシングのビデオを繰り返し観ることで「ボクシングの距離」をつかんだ小比類巻さんは、再び東京へ。そこからの快進撃は周知の通り、プロテストに見事合格し、プロデビュー後は5連続KO勝ち、日本チャンピオンまでも制しました。
「この道をやめるか、それとも続けるか。それを教えてくれたのは三沢の海だった。」
試合後にもらえる休みは、もっぱら傷を癒すために使うという小比類巻さん。
「海外に行って休養したりもしたが、一番癒されるのはやっぱり三沢。三沢の温泉に毎日入って、仲間と楽しく過ごして。傷の治りも早いんですよね。今でも三沢に帰るのが一番の楽しみかな。」
練習で自らを究極に追い込む「ミスターストイック」も、三沢に帰ってくると”小比類巻少年”に戻るといいます。
挑戦は続く
人生のゴングが鳴るまで
現在36歳。
K-1ファイターなら引退するのが当然と思われる年齢ですが、小比類巻さんは正式には引退していません。
それは、「まだいける、まだ挑戦し続けられる」という気持ちがあるから。
誰よりもストイックに格闘技と向き合ってきた小比類巻さんは、ナンバーワンになることができませんでした。アマチュア同然の格下の相手にさえ負けたこともあります。それでも格闘技を続けているのは、
- 人生の終了ゴングが、まだ鳴っていないから
「人生はK-1の試合と違って、途中で勝敗が決まるということはない。第一ラウンドが劣勢だろうが優勢だろうが、そこでゴングが鳴ったりはしない。生きている限り、第二、第三ラウンドが必ずやってくる。」
K-1は、基本的には三ラウンド制です。この第三ラウンドの戦い方は、人生にも置き換えられると話します。
・第一ラウンド どうやって戦うかを決める時間。人生で言えば20代。
・第二ラウンド 勝負をかけるとき。冷静さを失わず確実に打っていく。社会でいえば30~40代や、責任あるポジションについている人。
・第三ラウンド 最後の勝負をかけるとき。もしもここまでが苦しい戦いだったなら、死に物狂いでひっくり返す。第一、第二ラウンドで負けそうだったとしても関係ない。これは50代以上、もしくは仕事や人生で何かを成し遂げるために力を振り絞るとき、または新しい人生をはじめるときと言えるかもしれない。
「そう考えると、僕の人生は今が第三ラウンド。まだ試合は続いている。」
どんなにかっこわるい姿をさらしている時でも、リングの上で倒れている時でも、小比類巻さんがただ一つ守っていること。
『あきらめない、迷わない、逃げない。』
第三ラウンドは、
格闘技界のため、そしてふるさとのために。
先日、肩や腰の大手術をした小比類巻さん。
「麻酔で久しぶりにぐっすりと眠れた」と会場の笑いをとりながらも、手術の理由をこう話してくれました。
「自分は引退試合をしていない。ずっとそれが心の中にひっかかっていて、できればK-1のリングで引退試合をしたい。」
- 現役引退
これは、人生の区切りとしての次なる挑戦です。
「僕らを見て、格闘技をはじめた人がたくさんいる。そういう人たちに大きな舞台を作ってあげたい。それができるのは自分だと思う。」
日本で生まれたK-1を“スポーツ”として新たな形で発信していくため、従来とは異なる新組織「K-1実行委員会」を発足。小比類巻さんはそのメンバーとして、新生K-1を展開するために意欲を燃やしています。
10代でこの道をめざし、今がまさに最後の勝負の時。
「みんなの気持ちを背負って、また東京でがんばれそう。ふるさとに、そしてみんなに感謝です。」
そう締めくくった小比類巻さんに、会場からは大きな拍手が送られました。
- ■編集後記editorial note
- 初の著書『あきらめない、迷わない、逃げない。』の発売を記念して行われたトークショーでインタビュアーをさせていただきました。質問に丁寧にユーモアを交えて応えてくれる小比類巻さん、まわりのスタッフへの気遣いも忘れず、終始なごやかな雰囲気でした。本当に強い人というのは、相手を気遣い、他人に優しく、心も強い人なんだと感じさせられました。これから続く小比類巻さんの挑戦を、ここ三沢からずっと応援しています。
平成26年8月24日 取材 楳内有希子
■三沢人date
小比類巻 貴之(こひるいまきたかゆき)さん
K-1ファイター・格闘家
三沢市出身。高校卒業後格闘家としてデビュー。練習で自らを究極に追い込むことから「ミスターストイック」と呼ばれ、K-1 WORLD MAX日本代表トーナメントでは史上最多の3度優勝。現在は小比類巻道場代表としてプロ、一般への指導に尽力している。三沢市観光大使。
◆初の著書『あきらめない、迷わない、逃げない。』(サンマーク出版)
K-1ファイターとして、幾たびの怪我や挫折を乗り越え、挑みつづけてきた心のあり方を記す。
◆小比類巻道場 三沢支部
トレーニング情報
内容:K-1、キックボクシング、ボクシング
場所:三沢市総合体育館
日時:毎週火曜日 19:00~20:45
TEL:090‐8259‐5416(責任者・対馬博毅)
Mail:kohi_dojou_hiro_t@docomo.ne.jp